500日
はるな


黄色い布張りの表紙のノートは母が買ってくれたもので、すらすら嘘を書くのにつかった。
三週間連続で書きこんだり、7ヶ月間開きもしなかったりしながらで13年経ったのだ。時間と手垢で沈んだ黄色。
ずっと言葉と体があやうく繋がっていて。ゆれるから、混乱する。いちど体から出した言葉はひとりでには戻らない、でも切れないであって、ぜんぶつながっている。しかもそれぞれ勝手に手をつないだり愛しあったりしながら。
人々はやって来て、去っていく。言葉だって、(それに物語だって)ぜんぶ同じだ。やって来て、さっていく。(望むと望むに関わらず)。そのうえわたしは自分がどこにいるのかがいつもわからなかったから、断然混乱は深かった。わたしはいつも途方にくれていたし、混乱していて、不安だった。それでも、いつもわたしはわたしの中にあったのだ。
(望むと望まざるに関わらず。)

500日ほどかけて、服を捨て、靴を捨て、本を捨て、写真を捨て、連絡先を捨て、捨てた。伸びる髪、伸びる爪、伸びてゆく娘。捨て、捨て、捨てていく合間に花を買い、枯らし、捨ててはまた買った。卵を買い、牛乳を買い、パンを買い、湯を沸かす営みのなかで、少しずつ古びていくノートを捨てずに持っているのは。いるのは、泣くほど嫌な全部と、13年ぶんの嘘がまだ必要だからだ。


散文(批評随筆小説等) 500日 Copyright はるな 2019-01-16 19:53:59
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