マッチは売らない少女
こたきひろし

不幸にははじまりがあるらしい
その先には大概どん底があって
どん底から這い上がれるか
そのまま沈んだままかで
人間の真価が問われるらしい

しあわせには入口があるらしい。
けれど
けしてその先に絶頂があるとは限らないらしい
しあわせは続くと慣れてしまい
空気みたいになってしまうらしいから

以上
二通りとも何だか行き先が不透明だな

「それはさておこう」
日本語がおかしくなったかもわからない

極寒ではあったけれど雪の降らない夜に
空には冷たい星が綺麗だった
ネオンの看板がそこらじゅうに妖しい色彩を撒き散らしていた
繁華街の曲がり角。人目を忍んで暗がりに立っていたのは
マッチは売らない少女だった
彼女が買って欲しいのはその真心だった
通りすがりの男に近づいては声をかけた。
「お金と引き換えに貴方にお譲りします。私の持っている若さとわずかな時間を。そして誠心誠意をおまけにつけて」
その言葉に男たちは一様に立ち止まると、少女の顔を覗きこんでからその肢体に目をやった
わるくない
男らは思い「いくら」と聞いてくる
少女は手の指を使って売値を示した

マッチは売らない少女が
新聞の片隅の記事に載った時、その名前にはアルファベットの文字がつけられていた
少女の生い立ちと育った環境は
彼女が不幸を生まれもって来たことを証明していたかも
しれない

彼女の場合
不幸は始まったのではなくて生まれる前から引きずってきたに
違いなかった










自由詩 マッチは売らない少女 Copyright こたきひろし 2019-01-16 06:07:37
notebook Home 戻る  過去 未来