メモ
はるな


どっしりしたコート、赤いくちべに、空いてる電車、缶コーヒー。
師走、指をひらいて夜をあるく。ほとんどこわくないよって顔をして(あるいはほとんどなんにも知らないよって顔)。種、草、蔓、実、届く(届いた)ものと、そうでないものとのちがい、違うということ、知らないということ、わからないということは恐ろしい。恐ろしさの先を手探りでいこうと試みて、疲れてしまったわたしたちを、人々はもう許さない。世界はつねにあらゆることを許しているのにね。(許さないことも含めてね)。だって白いコート、素足、百年、缶詰の魚たち、ビルのアナウンスのみだれ、恋人にあいにいく男の子たち。電池はがんがん減っていく。
触れる私よりも、触らなくても存在している思考や、言葉を脱がしていって、むき出しにしてね。手ごわい夢、コーヒーをおかわりする、履けなくなった靴、予約の延期、ほとんどなにもこわくないよって顔をして、歩くのだ。ブーツのなかで凍える指、ばらの棘入りの手、杖、帽子、新宿三丁目、花柄。わたしたちはみんなちがうし、ほとんど差はないよ。くしゃくしゃになった包装紙とか、レースのカーテンくらい。行こう、行く、人々がなにひとつ許さなかったとしても世界はそうではない。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2018-12-29 17:30:44
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