些細な幸せ
梓ゆい

父にあやされて
ようやく眠る小さな小さな甥っ子。

ぽん・ぽん・と背中に優しく触れて
胸にかかる寝息を浴びながら
空を見上げて呟いた。

「ぼくはもう、何もいりません。」

遠い昔
生まれたばかりの長女を抱いて
父は母の隣で泣いていたという。

戦後まもなくに生まれ
そのまま養子へと出された赤ん坊の父。

貰いっ子・捨て子といじめを受けて
たった一人でガキ大将を殴り飛ばした
子供の頃の父

家族となった新たな命が
孤独に震え
忘れ去ろうと封じた出来事さえも
黙って受けとめた。


自由詩 些細な幸せ Copyright 梓ゆい 2018-11-28 23:32:01
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