歩み
葉leaf

歩み


収容所は終戦とともに花にあふれ、至る所に陽射しが降り注いだ。男はいくつも国境を越え、国境を突破するたびに銃創を負った。孤独という唯一絶対神は毎日新しく男を創造した。

山里は文明の到達に伴い急速に開発されていき、人間の放つ電波により通信障害ばかり発生した。女は民謡から歌謡曲を経由してポピュラーソングへと編曲に編曲を重ねた。音楽はその一節一節に女の華やかな愛情を表現していた。

人生の塵を拾い集めることは崇高な行為のように思えた。男は余すことなく人生を享受しようと、いくつも小石を並べていった。小石のつくり出す電磁場が、歴史の流域に渦巻いていた。人生は小石一つ一つの中にも改めて包まれていた。

硬い矢が放たれて緩い放物線に身をゆだねている。女は幻想の矢に追われるように、日々情報の確執の中でもがいていた。女は太陽が自分を呼ぶ声や、風が自分を誉めそやす声がひとつも聞こえなかった。

システムやネットワークは津々浦々へ張り巡らされた。男は経済のネットワークに組み込まれて労働し、人間関係のシステムの中で生活し、出版の流通網において執筆した。それぞれが重なり合う円環を高速で回転し続けること。

肉体を知るためにまず精神を知る必要があった。だが肉体を呼び起こすものは精神ではなかった。男と女は廃病院の待合室で出会った。いつまでも呼ばれない待合室、診察券は塵と化す待合室で。男と女は互いの健康を治療し合う必要があった。


自由詩 歩み Copyright 葉leaf 2018-11-23 04:58:35
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