剪定
新染因循


繰り返される奇蹟の剪定。
無造作に投げられた肥料袋の中
目一杯に、名のかけらもない痩けた原住民。
命を表象した符号がうねる交差点。

ときおり霞むような速さで、伐採、
あるいは収穫をおこなう、交信中の仔羊の散瞳。
肥えた、戦禍で編んだスーツを着た、逃げ惑う老人と、
その指からこぼれたショッポの吸い殻。

それを路地裏から見ている、右腕の欠けたわたし。
逆光と、けたたましい金切り声へと、
吸い殻だ、それでも袋詰めにはなりたくないと
駆け出したわたし。

街路樹の根にすわれる、希釈された葡萄酒、
黒ずんでひび割れたのどを濡らした奇蹟、
それは雑踏の腹いせにふんづけられる、血、
たしかになによりも赤かった、わたしの血。

時代の谷間に、憎々しいほどに拓けた青。
握りしめた指のように白むわたしの空へ、
誰かが投げ捨てた真っ白な包帯を巻いた右腕。
あの老人の煙草をしゃぶる、血統書つきの赤子。

嘲笑うように羽ばたきを繰りかえすカラスと
夢を貪られて吐瀉物にわらうゴミ袋。
それに群がる半世紀前の幻影たちだって、
ねぶるものをなくした胎児。

太陽を、生きとし生けるものすべてが一度は仰いだ太陽を、
貪るように劈いていく真っ黒なカラス。
誰もが溺れている、剪定された運命から零れたコールタール。
袋のなかから微笑みかけた、骸を抱えた鏡の中。



自由詩 剪定 Copyright 新染因循 2018-11-19 08:01:41縦
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