選択とTシャツ
Seia

無限に続く壁
無限に広がる床
あらゆる空間がつながっている場所で
すべてが(すべてが
そのままに飾られていたとして
ひとつひとつ手に取り(触れ(眺め(聴き(感覚を
総動員すれば
好きなものが見つかるだろうか
気に入るということを
たったひとりで
何の影響も受けない
無限に続くしろい世界で
選択をすることに意味を持てるだろうか

普段より長く入っていた
お風呂上がりはどうにもだるくて
襟首がくたくたになったTシャツを
濡れたままの髪で湿らせた
冷蔵庫から取り出した
ほどよく冷えているもらいものの柿
雑に剥いて皿に盛る
録画していたお笑い番組は
スキップを繰り返すうちに終わってしまって
口に含んでいたうすあまさと
どこか似ていた

好きだったものがそうではなくなるとき
プラスとマイナスはどちらに傾いてるのか

知らないバンドの
インストアイベントを
視聴コーナーの
ヘッドホンを付けた頭越しに見かける
思い出したのは
すこし有名になって
田舎に帰ってきたギタリストが
村に伝わる伝説を使って
大人に利用されていくB級映画を
ポップコーンを食べながら見ている夢
通り過ぎる背中に刺さらず落ちる
「サイン入り」の声

選択とは
それを選ばないことでもあって

たすけてくださいと
布団のなかで叫んだ記憶が
こめかみを弓矢が貫通するように蘇る
雨の朝
(助けて)と検索すれば表示される
厚生労働省電話相談ページ
指が止まる
助けてほしい
理由がわからない
朝ごはん
なにたべようかな
ぶつ切りの思考は寝起きのせいか

感受してもこぼれてしまう
ふさがった両手を固めるにとどまる

飛んできたりんごを
木製バットで粉砕するスロウモーション
流れているミュージックビデオは音がなくて
飛んできたのがおにぎりだったら
罪悪感の違いに気付くのか
右へ左へ
飛び散る米粒を
捉えるカメラを
中に入っていた梅干しを
種を
電子レンジが鳴り
温めていたパスタを取りに行く
皿とフォークを用意しているうちに
曲は終わっていた
誰が歌っていたんだっけ
消音と書かれたボタンを押しても今更

手に取った本を読み終えて
コーヒーの匂いがするただの氷水
ちびちびとなめて
時間間隔が薄れていく
無限はなにもかも忘れさせるのか
選択をし続けることは
何も選ばないことと同義か
あわせ鏡の真ん中で
違和感の原因を常に探している


自由詩 選択とTシャツ Copyright Seia 2018-11-18 21:31:57
notebook Home 戻る  過去 未来