シュガー・ブルース
帆場蔵人

命を頂いて生きている
だから頂きます、というらしい
けれどそれはそんなにありがたく
罪深いのだろうか
鶏が産み落とした精の無い
卵をいくつも使ったケーキは
悪徳の味がするのか
命を失った肉は血も冷たい
サトウキビたちを殺して作った
砂糖のなんと甘いことか

甘さゆえに積み重ねられていく
シュガー・ブルース
廃糖蜜さえ酒に変え
菓子に紅茶に仔羊に
ラムをひとふり

なんと罪深い
シュガー・ブルース
いつまで耳を塞いでるのさ
血が流れる音がしているよ

父を、母を、祖母を、兄妹を
友人を、見知らぬ人を、異国の人を
犬を、猫を、鳥を、蟻を
太陽を、星を、宇宙を
殺して、滅ぼし尽くし
路地裏で飢える人を
戦場で潰える生命を
親を亡くした子供を
みつめながら歌うのさ
血が流れてるその傍らで
シュガー・ブルースを歌うのさ
耳を塞いでる暇はねぇ

夢だ希望なんて玩具箱にしまって
蛇の潜む草叢に踏み出して
精のある卵を手に入れてごらん

バロットを噛み砕いて血も肉も骨も
余さず食べ残さず、きみが生きる糧から
目を逸らすな、そいつもきみを観ている
互いの首を締めあうような生き方が
生きてるってことじゃないか
そんな労苦のあとの
食事は美味いだろうさ、甘いだろうさ
そんな時、シュガー・ブルースを歌うのさ

耳を塞いでる暇なんてないよ
歌えよ、シュガー・ブルースを
前奏は頂きますから始めようか
罪深くもありがたくもない、互いの
生命を晒しているなら、ただ断るだけ
頂きます、と否応もなくね


自由詩 シュガー・ブルース Copyright 帆場蔵人 2018-11-16 00:00:48
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