伝えられてきた言葉
帆場蔵人

丹後富士の頂へ
うろこ雲が巻き上げられていくと
明日は雨が来るといつか聴いた
あれはだれの言葉だったのか

町を歩く人びとは明日の雨を思い
空を見上げることはないようで
誰もが今を足早に、昨日を思って
明日の天気をスマートフォンに
尋ねている

丹後富士の頂へ
うろこ雲が巻き上げられていくと
明日は雨が来る
町が田辺藩と
呼ばれていた昔より
さらに昔のだれかから
伝えられた言葉のひとつ

町を歩く人びとは明日の雨を思い
空を見上げることはないけれども
昨日の雨の記憶に心曇らせることがある
集落は水に浮かぶ飛び石になり
崩落が彼方此方で起きた

雨よ、静かに頂きを越えて
落花した花の傷口を
楚々と洗い流してくれ
時との旅だけがそれを
癒すのだとしても、雨よ
落花した花弁を歓びあふれる
場所まで流してくれないか

丹後富士の頂へ
うろこ雲が巻き上げられていくと
明日は雨が来る、スマートフォンから
顔を挙げて空を見上げてそう呟けば
伝えられてきた
言葉はまるで祈りのように
だれかの耳朶をうつ









自由詩 伝えられてきた言葉 Copyright 帆場蔵人 2018-11-11 14:27:48縦
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