店内の明かりの下で
こたきひろし

その小さな洋食屋はオープンキッチンになっていた
店内には四人がけのテーブル席が三つとカウンターに椅子が五つつ並んでいた。
マスターは二十代半ばの男性で、その街に独立して店を出す前は都心の割りと大きいレストランで働いていたらしい。
その頃、私は十八歳。地方の高校を出て上京しそこでコック見習いを始めて半年くらい経っていた。だけど私がその店で働く事になった事情はどうでもいい。それを文字したら何だか自分が惨めな気持ちになるだけだから。

ただ言葉にできるのは、けして料理の道を目指しての事ではなかった。
単純に言えば、時がきて生まれ育った家から出ていかなければならない状況だったからだ。

真理子さんは夕方の六時からバイトに入り十時まで働いていた。都内の高校に通っていた十七歳。
田舎で生まれ田舎育ちの私には初めて会った時から太陽よりも眩しく煌めいていた。小柄で細身で身長は低かったけれど、反比例して胸は柔らかに膨らみお尻は丸みを帯びていた。
都会で生まれ都会育ちはあか抜けていて肌は白く可愛い顔立ちはまるでお人形さんだった。

店はランチタイムをマスターと私の二人で切り盛りしていた。
繁忙時間が終わり客がいなくなると「準備中」の看板を入り口のドアの外から見えるところに出した。
それから五時まで二人は休憩した。

アルバイトの真理子さんは私の二倍も三倍もよく動きよく働いてくれた。
明るく接客しテキパキと料理を運んでくれた。
私は完全に彼女に負けていた。
本業がバイトに負けてどうするんだよ。
私は不器用で鈍感で口下手だった自分に引け目を感じ自分を呪っていた。

そんなある夜。客がいなくなると、真理子さんはカウンター前の端の席にすわっていた。
隙な時間はいつもそうしているように紙ナフキンを三角に折りながら、キッチンの中のマスターとおしゃべりしていた。
私はその会話の中にいつも入れずにいた。
その時、マスターが私の事を話題にした。話しは私の思わぬ方向に進んだ。
「真理ちゃんの事Kが好きだって言ってたよ」
私は慌ててそれを否定した。確かに彼女に好意を持っていたし、それをマスターに漏らしてしまっていたが。
私は強く否定した。否定しながら彼女の顔色を盗み見る自分がいた。
すると真理子さんは言った。
「Kさんですか、私には勿体ないですよ」
と言ってのけたのだ。

それから数日後。夕方六時十分前辺りに高校生らしき学生服をきた男子が一人で入ってきた。
マスターはまだ顔を表していなかった。高校生らしき客は
入ってくるなり店内を見回した。何だか誰かを探している様子だった。
私は「いらっしゃいませ」を言ってキッチンから客席の方に出ようとした。
その時真理子さんが店の裏手のドアから着替えて入ってきた。
そして客席の方に歩くとそこにいた客に近づいて親しげに声をかけた。
狭い店内。私は一瞬に心が凍り付いた。

真理子さんが私に出した残酷な答えに著しく打ちのめされて



自由詩 店内の明かりの下で Copyright こたきひろし 2018-11-04 19:29:45
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