やわらかな傷跡
梓ゆい

箸で摘まんだ骨の欠片。
これは
私の頭を撫でた父の手。
たった今
父は抜け殻となって帰ってきた。

広い部屋に佇む母と娘たち。
炎の熱だけが
冷え切った両手を撫でまわす。

「形が、綺麗に残ったね。」

妹の胸の内は
安堵なのか
諦めなのかは解らない。

骨を染めた緑は
棺に入れた花と葉っぱと茎の色。
それは
母の頬を濡らした涙の跡にも見えた。

呼吸をするたびに
心の中を覗かれそうで
息を止めるだけ。

死ぬ間際に抱きしめた父の身体は
子供みたいに軽かった。
繋いで歩いた手の暖かさを
かたく冷たい首筋の感触を
喪服を脱いだ瞬間に思い返す。

真珠の首飾りに落ちた塩辛い涙
微笑む遺影が私を慰めている。







自由詩 やわらかな傷跡 Copyright 梓ゆい 2018-11-03 22:16:21
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