49ばんめの秋
はだいろ


秋のせいなのか・・・
もちろんそうではなく、年のせいで、
抜け毛がすごい。
髪の毛は細くなり、力なく頭の形にペッタリと貼り付くよう
安い美容院で、白髪染めのカラーリングをしている影響も、
それはあるだろう・・・
ここで、いっそカラーなどやめて、
1000円カットにして、白髪で生きようか、
それとも、奮発して、もっといい美容院に行ってみようか・・・
迷いに迷った、49歳の秋


職場で、派遣のおばちゃん(差別用語でごめんなさい)たちに、
説明不足を、
にっこり笑顔でごまかそうとしたら、
「何笑ってんの」みたいに、全然聞こえる声で、
嫌味や悪口を言われて、
ショックだった
つまりそれが、老いということなのだ
若い頃は、にっこり笑えば、向こうも笑ってくれたものを、
今ではすっかり気味が悪いということなのだ。
あの、
ジャニーズをやめたトキオの人も、同じだったのだろう(もちろん同じじゃないですが)


だから別に、
今更、モテようとしてもしょうがないのだけども、
もし、ここで1000円カットにすると、
僕の一生で、もう、
お洒落な美容院に行くという経験は、
決して訪れないだろうと、考えたときに、
やっぱり、冒険したい心が少しだけ上回り、
この街に引っ越してきたときから、
素敵なたたずまいだなあと思っていた、
美容院に、
ものすごくドキドキしながら、
予約したのが、一週間前のこと。


若い夫婦のお店で、
女性の方が、僕の髪を、切ってくれた。
僕の、髪を、切る前に、
隣の、ナイスミドル風の、男性と、ずいぶん話が弾んでいて、
その声が、とても可愛らしく魅力的だったので、
また緊張してきた。
その緊張が伝わってしまったのか、
僕の髪を切るとき、すっかり無言で、
話しかけて欲しいと、思いながら、心が傷ついて、いじけてしまった
おしまいの方で、
少し話したけれど、話題は娘のランドセルのことで、
ついぞ、
僕が話題の主役になんかなれないのだなあと、
さみしく11,140円を払った。


僕は、一年のうちで、
秋がいちばん好きだ。
ちょうど、今頃。
もちろん、春があって、夏があって、冬があって、一年だから、
そのどれも好きになれるけれど・・・
もはや恋愛などは望まない、片思いでいい。
ああ、誰かを好きになりたいなあ・・・
2か月後、また予約したら、
同じひとが切ってくれるかなあ。








自由詩 49ばんめの秋 Copyright はだいろ 2018-11-03 21:46:02
notebook Home 戻る  過去 未来