月精
本田憲嵩

青年もまた樹木です          あるいは
月面に向けられたロケットとでもいうのでしょうか
まだ鮭のように勢いよく放つまえのそれを
湿気った寝具のなかで
もうすでに捧げています
その体幹の節々に日々の生活の営みが
まるで夕の陽だまりのように凝るとき
とくにその夜には 夜が濃密にひろがってゆく
陰嚢を膨らませた白い燃料の海は
その満ち足りた引力に強く引かれながら


月の桂から
映写機のように差し込む
青白い月影のなかに
肌が宿ります 黒髪が宿ります 微笑が宿ります そして溢れだす
さらさらと水のようにせせらぐ
澄んだ未生の声
胸からはシュレッダーにかけられたような
花束のひかりを抱えて
磁石のように方角を向いて
窓に宿る月と共に添い寝しています



自由詩 月精 Copyright 本田憲嵩 2018-11-02 12:22:58
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