ノブちゃんは、ね。
こたきひろし

ノブちゃんはね。
むかしも今も女の人でした

私たちは偶然再会しました
その時ノブちゃんはね、鰻屋さんで働いてました
私はお客さん
勤め先の社長や同僚と食べに来ました

鰻重を運んで来たのがノブちゃんでした
何十年ぶりに会ったのに
私は直ぐにわかりました
ノブちゃんもビックリした表情を見せました

でも
社長や仕事仲間と来てましたからお互い空気を読みました

ノブちゃんはね。
すっかりおばちゃんになってました
ノブちゃんはね。
若い頃はキラキラかがやいてました
セクシーでした

危ない
危ない
若者だった私は引き寄せられて持ってかれそうでした

だけどね
ノブちゃんは他の男に先に持ってかれました
お腹が大きくなって

だけどねその男は悪くて
ノブちゃんはお腹の赤ちゃんごと
棄てられました

何だよそれ
男見る目ないなと私は思いました
私が赤ちゃんの父親に
肩代わりしてもいいな
なんて本気で考えてしまいました

でも
ノブちゃんはね、
私の周囲から
消えてなくなりました

あれかるらノブちゃんはね。
どうしたんだろうか
イヤと言うほど苦労はしたんだろうか

そんな事、何も聞くこともなく
食事が終わると
私と同僚は社長に
ご馳走さまですと頭を下げて
鰻屋を出た

美味しかった
ですが
その日は
ノブちゃんの事で
胸が一杯になりました



自由詩 ノブちゃんは、ね。 Copyright こたきひろし 2018-11-02 07:23:00
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