清秋
AB(なかほど)
清秋
空清しとは季語のみで
ここ数年は
雨や風の災いに心痛めたり
意味のない達弁に
うつむいてしまいたくなる
そんなことが多い
それでも
ほんとの清秋が突然にやってくると
僕は
なおたまらなくなる空がある
どうして降ってくれなかったんだろうね
初めての男の子を
六ヶ月で持っていかれた母は
あらん限りの声を
張り上げ
それはどこまでも澄んだ
秋の青空に吸い込まれていった
その煙もやがて
秋の青空に吸い込まれていった
明けて静かな正月
少し笑顔の戻ってきた母の顔を見て
また
あの青空を思いだしてしまい
僕は振りかえって
あの日
どうして降ってくれなかったんだろうね
と
写真に向かってつぶやいてみた
あれから
二十年以上の日々が通りすぎて
世の技術は目まぐるしく変わっているのに
世の中では相変わらずの
空しい詭弁が渦巻いている
それを君は見ている
という世界が
本当にあるのかどうか
判る術もないけれど
清秋
思い出してしまう空がある