松水の子守唄
竜門勇気


始まりの場所を
私はあなたに告げる
告げる告げる告げる告げる

彼方より来た言葉で
喋り続けるだろう

私があなたに何を告げるのか
羨望と期待が入り混じっているように見える

しかしこの言葉たちには何も意味はない
あなたの故郷や
そうではない場所で
繰り返して聞いてきた生命の讃歌

そのようなものと同じと思って差し支えない
むしろより下卑た
単純な論理が繰り返される詩だ
語る声が違い
語る言葉が違い
語る人が違うから
神聖なものに思えるかもしれないが

不愉快な現実について
愉快な夢想について
何度も繰り返すだけの
退屈な事実の羅列に過ぎない

私達がずっと継ぎ足し
今までここに残してきただけの
教訓に進む一つ前の蛹を
私は告げる
告げる告げる告げる告げる

継がれた枝が広げる葉が
夜をつくるつくるつくる

まず最初の人はいた
最初の人は寂しがりはしなかった
二人目が来た
最初の人は寂しがり始めた
寂しさの始まりだ
最初の人は寂しがる理由なんてなかった
ただ、二人目ができたから寂しがってみせたのだ
お前がいるほうが良い
お前がいないと悲しいだからそばにいろ
そう思ってつくった
寂しいのだお前がいないと
二人目は去った
最初の人は寂しがるのをやめた
三人目があらわれた
最初の人は賢く言った
あなたを私は大事に思っている
なくしたくない
そう言った
最初の人は寂しがることはしなかった
あなたを守ると言って
くだらない危険を飲み込んでみせた
それは地を這う小さな虫だった
それまで彼の友達だった
三人目が初めて見る自分以外の姿に驚いたのを見て
最初の人は冷酷な指で
彼をつまみ、口にしたのだった
それから小さな虫は針を身にまとうようになった
三人目は去った
最初の人は神に祈った
私より去らないものを遣わしてください
手を取り同じ景色を見て
私と同じことを聞き、嗅ぎ、私が思うように喋るもの
離れることのないものを遣わしてください
神は哀れに感じて
最初の人の目鼻と耳を二つにし
いくつもあった舌と口を一つにした

終わりの場所をあの星に運ぼう
いくつもあってはいけないから
終わりが来たら眠りなさい
あなたが眠りを軽んじれば
神は一つを残して取り上げなさる!


自由詩 松水の子守唄 Copyright 竜門勇気 2018-10-27 12:54:31
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