ひとり ぬかるみ
木立 悟





ひとくちの水ほしさに
幽霊は夜に立っていた
眠りと死の違いを
未だわからぬまま


あらゆる終わりに優しさは無く
ただ悲しみばかりが晴れわたる
舟漕ぎ人夫の
沈みゆく水面


花を切る 夜を切る
灰色の菓子を差し出す手
時間も意味も無いものに
捧げられゆく灰の目のうた


羽と種のからまる径
文字のかたちに割れる径
緑の炎の枝は落とされ
空は空の色だけにそよいでいる


庭の鋏で
アルタイルまで切り
もう冬になりかけた
少しの夜でも浴びようとする


いつ終わるともしれない億の日々が
遠回りの影にわだかまる
泡に分かれる夕陽のなかを
子らの歌声が近づいてくる


夜がさえずり
夜をこぼす
手のひらの上に
夜は旋る


一枚の紙が
三枚に笑み
表も裏も 光にあふれ
夜のひとりのかたちを照らす



















自由詩 ひとり ぬかるみ Copyright 木立 悟 2018-10-27 10:08:46縦
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