どこかのレクイエム
ヒヤシンス


 鏡に映る自分の立ち姿にあなたの面影を重ねる。
 こんな秋の夜長には。
 
 家中の時計が鳴り響く。
 おまえは時を刻んでいればよいものを。

 ポーの描いた大鴉か、リヒテルの奏でるラフマニノフか。
 夜更けをほんのり過ぎた頃、私の頭は混乱する。

 暗い暗号を解くカギはどこだ?
 鏡に向かって白々しく笑って見せる。

 あなたの面影が私を喰らおうとする。
 見世物ではないのだ。笑え。

 大きくて長い釘を私の心臓に打ち付けているもの。
 私は生きた。あなたよりも永く。

 鳥たちの声はもはや聴こえない。
 物語も歌えない。
 
 このまま夜が明けなければよい。
 幸福は朝を描くが、不幸は朝を塗りつぶす。

 聖歌隊の歌が聴こえる。
 沈黙の中に祈りが見える。

 涙は枯れたが、悲しくはない。
 私の心臓には影がある。

 


自由詩 どこかのレクイエム Copyright ヒヤシンス 2018-10-27 05:03:01
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