木に恋してた娘っ子
46U

わたし 娘だった頃 夜歩くのが好きだった
公園の木に挨拶し 
のみならずこっそり名をつけて
木の肌に手を押し当てては 
そっと名前を呼びかけた
誰もいない真夜中ならば 
抱きしめたりもしたけれど
落ち着かなくて 照れてしまって
すぐに腕を解いてしまった
 
中央公園の柳は「緑」ではなくあえて「紅」
南公園の桜は「時」で 自宅の柊は「ホリイ」
通りすがりの野良猫に
名前をつけて愛でるよに
わたしだけの名で木々を呼ぶ 
夜歩くのが好きだった

両腕でそっと抱きしめたなら
つめたい樹皮のその下で 
ときめきながら樹液は流れる 
そう感じたは うぬぼれか?

闇に身をひたし木に触れる 
彼らのしめった呼吸を感じた
みどりの息を吐きながら
従順なけもののように在る
手のひらに伝わる拍動は
自分だけのものではないと信じた
木にも鼓動はあるのだと
わたしの皮膚と樹皮のはざまに
通いあう何かがあるのだと

とうに故郷を離れた 時は流れて帰れない 
なつかしい木々 
あの名で呼べば も一度応えてくれますか?
蘇るのは真夏の夜の 樹皮のつめたさと拍動
仰ぐ枝ごし見えてた月と木に恋してた娘っ子


自由詩 木に恋してた娘っ子 Copyright 46U 2018-10-26 21:05:52
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