一人の女の人の
こたきひろし

一人の女の人のお腹の中に10ヶ月と余りを滞在した
そこから出るまでの間に
私は
何度蹴っただろう
彼女のお腹を

胎児の足で
宿借りの分際で

でも
私が蹴る度に
彼女は自分のお腹を
自分の手で触りながら
幸せそうな笑顔を
満面にしてくれた

そして女の人は
側にいた
男の人に言葉をかけた
あなた、あたしたちの赤ちゃんが
お腹を蹴ってるわ


すると彼は
女の人のお腹にそっと耳をくっつけて
私の存在を探ろうとした

私は無事に産まれなくてはならない
二人の為に
自分の為に
女の人の産道を通り抜けて

その間に
彼女に死ぬほど苦しい痛みを与えてしまうかも
しれないけれど

彼女も産まれた日には
母親に死ぬほど陣痛を与えたから
そのお返しなんだよ

私の妻は
私の子供を二人出産してくれた
これって凄い事なのに
私は正直
実感が湧かなかった

男だからさ
男だから仕方ない

でも
女だけでは
子供は産めないんだよ

なのに
妻にはよく言われるんだ
あなたは
気持ちいい思いしただけでしょ
あたしはたいへんだったからね
女の味わう苦しみ
男にはわからないでしょ

わからないよ
わかるわけないさ
男なんだから
男なんだからさ


言ってはみるけれど








自由詩 一人の女の人の Copyright こたきひろし 2018-10-26 07:04:27
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