死と乙女---シューベルトを追悼して
st

死神が

美しい乙女に恋をした


死が近づいている乙女を

冥府に導こうと来たのだが


そのあまりの美しさに

恋に落ちたのだ


ところが 乙女はまだ自分に

死が近づいていることを知らない


乙女はある日 

鏡に映っている 自分のうしろに

死神がいることに気がつき驚く


(ああ 私はまだ若いのよ)

(残虐な死神よ 私に近づかないで)

(あっちへ あっちへ行って)

(私に触れないで)


死神は乙女に


(美しい乙女よ 恐れてはいけない)

(私はあなたの友なのだ)

(あなたに安らかな死を与えるために)

(やってきたのだよ)


(しかし あなたの美しさにうたれてしまった)

(あなたに 望むだけの時間をあげよう)

(充分に 人生を楽しむがよい)


死神は乙女から姿を消す


そのあと乙女は

美しい青年と

はげしい恋をする


しかし その青年こそは

天界から使わされた者だった


死神の情けに怒った最高神が

乙女の死を成就させようと

送りこんだのだ


青年は残酷に乙女を捨て


乙女は悲しさのあまり

河に身を投げた


別の死神が乙女に

死を与えたのだ


しかし 

乙女に恋をした死神はつぶやく


(美しい乙女よ おまえは)

(ほんの少しのあいだでも 充分に)

(しあわせだったのだ)








自由詩 死と乙女---シューベルトを追悼して Copyright st 2018-10-19 13:45:58
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