ダイアリー
そらの珊瑚

 とある街で

金木犀が香る
だけど金木犀はみあたらない
探しているうち
何年経ったろう
すっかり風向きは変わってしまった
行きついた先で
仕舞い忘れられた
軒先の風鈴が鳴った


 再会

海がこんなに満ちているのに
潮の香はしない
途方もなく遠い場所から
旅しているうちに
海は透明な雨になった


 寝坊

目覚ましタイマーの音を
青いカナリアに変えたせい
棺桶の寝心地はとても悪かったけれど


 雨上がり

少しだけ窓を開けておく
乳房から孵化したわたしの蝶が
旅立つにはちょうどいい温度


 風待ち

昨日と違う今日にするために
スカートをはく


 乱数表

いってらっしゃいと
わたしたちは毎朝別れ
ただいまと毎夜再会する
迷子にならなければ
或いは
死ななければ


 夏供養

ひまわりは枯れて
彼女が背をむけた場所に
黒々とした影が生きている

 
 ハッピーバースディ

娘が十九歳になり
私は
母になって十九歳になった
ともに未成年
蕁麻疹の原因は不明











自由詩 ダイアリー Copyright そらの珊瑚 2018-10-05 15:03:46縦
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