波兎の石塔
田中修子

くらいくらい 荒野につくりあげた
復讐の塔に閉じこもり
「ひとりだ」と呟いたら
はたかれた

ひたすら 喪いすぎたのだろうね

青い夕暮れに細い声でないてさ

耐えられないわたしを わたしは わたしが

ゆるされることをのぞみもしないで

冷やかな風 一瞬の朱金にうつりかわり
こあい濃藍こわい怖い、夜がきて

なにをしろしめす

(ただ、
いつかみた黒い海の波音を
ふさいだ耳にばかり
つむった瞼には
想い出ばっか)

波うさぎが跳ねているよ、

とおい とおうい
北の海 も 南の海 も
波うさぎはあるだろう

こゆびをわたしにおくれよ 千年生きると誓え
お守りにして首飾り
くちづけた

痛くないように、喪われたもので
喪われたものを ふさぐこと
できなかったんだ

ぎこちなくあなたをしんじようと
つらねているが
もうなにもかも
 とっくに 喪われて いるから でもね、
なみうちそうしてきえていくしらなみを
北の海 にも 南の海 にも
わたしもあの夜 凍えながら たしかに
数えていたんだよね
一羽 また 一羽。

それだけでじゅうぶんだ もう
きっとあの日だけ
幾重にもきせきは、あったんだろ。

こゆびをわたしにくれた
あなたは 確かに 欠けた ひと

だが あの子らほどでは ないよ と吐き捨てて、

気付けは復讐者も死に果てた
最初からいなかった。

やさしい波兎の手ざわり
傷つかない傷つけない
復讐の石塔から
わたしは
あがいた もがいた
みぐるしくいきするために
皮を剥がれながら
這い出よう、としていた


自由詩 波兎の石塔 Copyright 田中修子 2018-10-05 12:34:32
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