僕らは揺れているだろう
ホロウ・シカエルボク


僕らは、揺れているだろう
冷めた血を滴らせながら
僕らは揺れているだろう

なにも見えない世界や
なにも聞こえない世界
そんな世界のことを
恐れ、そしてどこかで憧れもしながら

ひとりぼっちでいると
孤独は居心地がいい
タチの悪い孤独は
望まない集団の中で喉笛を噛みにくる
その牙は暗く
傷口はたちまちに腐敗して使いものにならなくなる

しんとした場所で綴るものはどこか遺書に似ている

昨日からの曇天が割れて、今日初めての太陽が寝坊を詫びるように急ぎ足で現れる、それは僕に
この世に生まれてきた瞬間のことを思い出させようとする

さっきから電線の上で
こちらを見つめているカラスがいる
僕は彼が歩み寄ってくるのを待っているが
彼ももしかしたらそうなのかもしれない
でも僕は彼のように電線に止まることは出来ない
フェアじゃない遠慮
でも彼にしてみれば
僕は彼を殺すかもしれない生きものなのた

僕らは揺れているだろう
夏と秋のどっちつかずの中で
僕らは揺れているだろう
汗ばんだ衣服にいらいらしながら

たくさんの言葉を過去に捨ててきた
届きましたか
聞こえましたか
僕が話そうとしていたことが
僕が話そうとしなかったことが
どれほどの趣向を凝らしても現在しかありえないから
人気のないところでいつも
いつだってなにかが至らないようなそんな気がしてる
手紙を送ったあとで
それは間違いだったかもしれないと考えるみたいに

今朝はまだ食事をしていない
まだ食べたいという気にならない
もう少ししたら義務的に
簡単なものを食べるかもしれない
僕らは食欲さえ、もう本能に基づいてはいない

僕らは揺れているだろう
揺るぎない小さな世界の中で
僕らは揺れているだろう
白濁した白目をさらしながら
僕らは、揺れているだろう

川面は光を受けて
ガラス屑のように輝いている
流れているものはいつだって
美しくあることが出来る
幼いころから夢見ていた様々な未来の行く先は
実は
そんなものだったのかもしれない、などと
適当な悟りを鼻で笑った

僕らは揺れていて、そして
生きているフリをしている
空っぽの日記を読まれることが怖くて
ぎっしりと書き込んであるように見せている
詩人がやたらと喋りたがるのはきっとそのせいだ

明日どこかでばったり会えたらいいね
確実に会えるとわかっていたら
僕は家を出ることはないけど
約束は心を重くするから
僕のことなんか忘れたみたいにしてくれているとありがたいよ

僕らは揺れている
繋いだ手の感触を不快に思いながら
僕らは揺れている
おためごかしのたびに
口が歪んでいくのを感じながら
僕らは揺れている
ただただ自分を愛しながら
そしてどうしようもなく憎悪しながら

いつかその意味がわかるとき
誰を愛するべきかわかるだろう
いつかその意味がわかるとき
誰を殺せばいいのかわかるだろう
どこの誰の世界にだってきっとそいつしかいないのに
僕らはずっと知り合いみたいな顔をして生きている


自由詩 僕らは揺れているだろう Copyright ホロウ・シカエルボク 2018-09-27 21:42:21
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