偕老同穴
Seia

右腕の痺れと乱視と空腹と眩しさと
カイロウドウケツの中で一生を
眠っているうちに過ごした気分だ
ゆるく握った手の中に
かなしみの感情だけを残して
早朝に目が覚めてしまった
歪む顔を隠すように
近くにあったハンドタオルをかぶせる
にじむ窓
つかえる喉
俯瞰で確認したわたしは
なんだか笑っているように見えた

植物が土に根を下ろす
吸い上げている音を聴診器で聞いてしまうと
包丁を振り下ろすことに
すこしだけ
ためらいがでる
一思いに
皮を剥いでしまおう
さらした水を捨てているとき
どろりとしたものが
クズと一緒に
排水口に流れていくのを見た

許さないと書かれたプラカードを
掲げているひとたちのなかで
寝転んでしまえば
白いシャツに足跡がつくだろうか
おそらく感じるであろう痛みを
言葉に変換できるだろうか
それとも
居なかったことにされるのだろうか
いままでと同じように
無数のひとの頭で縁取られた
空を見上げて

井戸水に映る月はゆらぎ
常にかたちを変えてしまうから
満月でも三日月でも
あまり意味のないことのように思えた
洗面器に映る照明はゆらぎ
常にかたちを変えてしまうけど
それははじめからどうでもいいことだった
あたまの中でひるがえる水面を
くしゃくしゃに丸めて
もういちど落としてみる
地球の裏側まで続いている井戸の
ちょうど真ん中あたりで
重力に捕捉されながら
ひかっているのが見えた気がした

人差し指と親指で
円をつくって
そこから
片目を瞑って
四角い窓の外を眺めている
この穴の中で一生を
過ごすと決められたら
それはそれで楽なのかもしれない
急降下する気圧に
身体は反応してしまう
雨が一滴
窓に着弾すれば
指を離すと暗示をかける
スリー(ツー(ワン(を言う前に
もう片方の瞼が開かなくなっていく


自由詩 偕老同穴 Copyright Seia 2018-09-23 21:06:57
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