「空蝉」
桐ヶ谷忍

道の端に蝉が転がっていた
壁の影にひっそりと

炎天下の中へ這い出て
求愛を啼き叫んだおまえの夏は
一生が、
ここで終わったのか



あなたを思い出にするにはただ時間をかける
しかないのかますます鮮明になるあなたの仕
草や一言一句をどんなに舐め尽しても薄れる
どころかいつまでも舌に残る甘苦い粉薬のよ
うなのにこの恋は短命だと予め判っていたあ
んな恋長続きするわけない極彩色を見せる花
火が唐突に消えるようにあなたはきっともう
私の事など思い出しもしないだろう人生のあ
のタイミングでしか一緒にいられなかった人
そういう人は誰しにも訪れるものかもしれな
い出逢えるかどうかだけで私は出逢えたそし
て今はもうあなたを必要としていないなのに
何故こんなにも甘苦しくあなたの事ばかりを

突然、死体だと思っていた蝉が動いた

あっという間に空に向かって高く
高く飛んでいった

生きていたのか


そうか、生きていたのか


自由詩 「空蝉」 Copyright 桐ヶ谷忍 2018-09-10 20:50:04
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