偽りで話す 赤い女
クロヱ

「何やら 嘘の匂いがするなあ」

なにか 一段と深い思い出の
あたしのよく知る 醜悪な思い出の一端によく似た
赤い女が 高く遠い 塔のてっぺんにいるらしい

その女の声は こんなにも遠く離れているのに
とても耳元に聞こえる

「その顔は 罪人の顔だ!」

かの喚きは 昔から聞いている子守唄
あたしはこの音を聞いて育ったのだ

「でも 守ってやるよ」
「でも 愛してやるよ」

反吐は何度も空に吐いて 浴びてきた
息苦しい壁の中を 身動きが取れないまま ひたすらに泳いでいた
ひとりで

「会いに 来ればと思ってねえ!」

置いてきたものなどたくさんある
持っていないものもたくさんある
欲しかったものもたくさんある
教えられなかったことなどたくさんある

それは どれも あたしひとりでは 出来ないもの

「あたしは 不幸だと思うの 赤いひとよ」


自由詩 偽りで話す 赤い女 Copyright クロヱ 2018-09-07 20:25:35
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