左の足から
坂本瞳子

左足が小さくなったのだろうか
どうしてもスニーカーが脱げそうになる
なんとか必死に踵のところで
抑えつけるようにして
やっとの思いで引きずっている
右足はそんな様子はちょっともなく
スニーカーに足はスッポリと
お行儀よくちょうど適切に
収まっているというのに
左足だけが小さくなるなんて
そんなことが起きるはずはない
なにが一体全体どうしてこんなことになってしまったのか
なにをどうしたら元に戻してもらえるのだろうか
自分がなにをしたというんだ
この世の中の悪いことはすべて自分のせいだというのか
ユーリディスを連れて地上に這い出る直前に振り返ったのも
ペルセフォネが地底でザクロを食したのも
オイディプスが父王を殺し実母を寝取り
ルシファーが堕ちたのも
吸血鬼が生き血を必要とするのも
ゾンビが人肉を必要とするのも
狼男が満月を見て返信してしまうのも
すべてが自分のせいだというのか
雨が降る中大きな水たまりを前に
脱げてしまいそうな左の靴を
足をよじってなんとかひっかけて
吊りそうになりながら
挫いてしまわないように
涙をこらえて口をへの字に曲げて
思い切ってあらん限りの力を出して
息を切らして
それでも飛び越えてみせる
いままでが
いまこの瞬間の
自分のなにがどうであろうとも
出せる以上の力すべてをぶつけてやるんだ


自由詩 左の足から Copyright 坂本瞳子 2018-09-04 22:42:36
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