夜と姫
木立 悟
鏡に飛び散る
灯りの欠片
黒の駒 黒の盤
目から胸から
誘われる水
想い出したように
音は湧き上がり
忘れたいかたちに
曇は泣きはじめ
うたも光も
ひとつ巨きく ひび割れたまま
午後の海を午後に照らし
足りない羽を風から奪う
暗がりに転がる
蝸牛の拍手
足の爪を切り 夜に放る
光を持たぬものもまた
豊かであれ
たどり着けずに
無い地図を見る
過去を見ても 過去が見えない
水を追い 水を追い 原に会う
姫 背を向けた花
草の波 尽きる羽
鏡の奥から
振り返る姫
居ても居なくてもつづいてゆく
不思議のなかであなたもつづく
かちりかちりとふいに鳴りつつ
あなたの表裏にあなたは溶ける
路傍の言葉
海草の言葉
空に刺され 笑う手首
涼やかな 涼やかな
泡の言葉
限りを持たない連なりの内
幾つも幾つも輪は描かれて
羽を透り 振り向く夜に
小さな鏡を手渡してゆく
自由詩
夜と姫
Copyright
木立 悟
2018-09-04 20:46:06縦