メモ
はるな


物語たちはことばのうしろですでに出来あがっている。辛抱づよく待っていてくれるのだ。それはつよくてさびしくてやさしい。
みどり色のオアシスのうえに花を作っていく。わたしの指は傷傷して汚れて、それは以前好きだったひとの手を思い出させる。花を買いにくるひとがみんな優しいとはかぎらない。朽ちてしまった百合を捨てながら、黒いバケツを洗いながら、われもこうの黄色くなった葉を除きながら、花を考える。だいたい花は人々が思っているほど優しくはないのだ。ことばよりずっと勝手だ、勝手に咲いて、きっと枯れるし、腐るし、機嫌を損ねると咲かないし、思ったようには咲かないし。そうしてやっぱりどれも美しくあることの我儘さ。花がもし枯れないものだったからここまで好きにならなかった。恋みたいだね。物語たちが、(たと永遠に)見つけられないとしても、存在しているやさしさはかなしい。花とことばはぜんぜんちがうと、いまは思う。花束と詩がぜんぜんちがうくらいにちがう。花束を贈るのと、詩を贈るのはちょっと似てるのに。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2018-09-01 00:25:34
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