とおくて近い天国の詩
青花みち

あなたが作ってくれたオムライスは変わらずわたしの好物で、特別に優しいのは終わりが垣間見えるから。見送りに来たあなたから逃れて、揺られて、揺られて、降りて、そこはわたしの街。あなたが追いつけないわたしの街。すっかり馴染んだ帰り道をたどりながら、細い路地へと伸びる影を踏み、振り返る。切り離された路地の向こう、大通りとわたし、いくつもの窓を数えてさようならの距離を測った。
また帰るねなんて挨拶はいつも上滑りで終わり、わたしのほんとうの言葉はひとりぼっちの部屋で留守番をしている。あと何回会えるかなんて指を折るくらいなら、全部切り落としてしまいたい。

あそこは天国なんです。みんなが微笑んでいるんです。でもわたし、羽根がないから浮いていられない。ふりをして、ばたつかせて、背骨が折れた。あなたは知っているだろうか。知らなくていいよ。うそ、知ってほしいよ。それもうそ、知らなくて、
うそ、
うそ、
うそ、
知らなくて。

ひとりきりの部屋に帰って、わたしはいまオムライスを食べている。あなたのオムライスじゃないからここは穏やかな地獄です。
あと五十年くらいしたらきっと羽根も生えてくるよ。そうしたらわたし、あなたに会いにいける気がする。路地を超えて、境界を超えて、ほんとうの言葉を連れ出して、地獄から飛んでいく。オムライスを食べに、天国へ飛んでいく。それまではもう少しだけさようなら。体やこころにはくれぐれも気をつけます。
あなたもわたしも、さ。


自由詩 とおくて近い天国の詩 Copyright 青花みち 2018-08-21 12:34:20
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