子供のころから若さが嫌いだった
ホロウ・シカエルボク


子供のころから若さが嫌いだった、気に入らないことがあるとグズグズと駄々をこねたり、癇癪を起したりするのが嫌いだった
子供のころから若さが嫌いだった、学生服をほんの少しやんちゃにアレンジした、中途半端な自己主張や隠れて吸う煙草が嫌いだった
子供のころから若さが嫌いだった、大人との間に壁を作り、商業主義のフェイクロックに妙な指の曲げ方をして乗っかるのが嫌いだった

思えばそんな風に、ずっとずっと感情を否定してきた、怒りや悲しみ、はたまた夢や憧れを語ることは、恥ずかしいことだとどこかで感じてきた、その壁を破ることはずっと出来なかった(いまはどうなのかよく判らない)下らないことで目を吊り上げたりする身近な大人たちを見ながら、感情は恥ずかしいことだとどこかで感じてきた、そんな俺をたいがいの連中は煮え切らないやつだとか、日によって性格の違うやつだとか、愛想のないやつだとか、言って…まさしくそういった恥ずかしい感情をこちらに投げかけてきた―俺と彼らにいったいどのような違いがあるのか?彼らが俺で、俺が彼らであってはいけない理由はなんなのか?時々は真面目にそんなことを考えることもあった、でもおおむねそんなことはどうでもいいことだった

たとえば限定された、取るに足らないコミュニティの中で、周辺の誰かよりも自分の方が素晴らしいと―そんなことを証明するのに躍起になる連中が居る、それは本当に大勢居る、俺のような連中も居ることは居るが、そんなやつはすぐに居なくなる、俺も含めて…こいつらはこんなに堂々と醜態を晒して、こんな小さな世界の王になって、それからどこへ行くというのだろう?その王座の座り心地はそんなに素晴らしいものなのだろうか?真面目にそこを目指してみようかと考えてみたこともあった、思えばそのころ俺にそう思わせたのは、まさしく若さというものであったのだ

ファースト・アルバムが嫌いだ、誰もが褒めそやすいわゆる名盤というやつでもだ…無自覚な勢いで提示される才能は確かにセンセーショナルだけれど、あまりにもそれは短絡的な気がする、若さにはキャリアがない、若さは自分が手にしている武器がどのようなものか知らない、若さはそれが一度崩れたとき、どうしたらいいのかまるで判らない、思えば俺が若さが嫌いなのは、そんな危うさのせいかもしれない、昔なにかの本で読んだ一節―一七才が人生で一番美しい時だなんて思わない―それは本当だ、一七才であることなど人生においては大した意味を持たない、若さは勢いを信じてしまう、夢中になってのめり込めることこそが本当だと信じてしまう、でもそれは一過性の熱病のようなもので、熱は必ず平熱に戻るときがやって来る…その時に若さはみっともなく狼狽する、いままでこれでうまく行っていたのに、いつだってそう出来ないことなんてなかったのに―若さは手段を知らない、ひとつの道が塞がったら、それ以外になにもないと考えてしまう(若さが嫌いな俺でさえそんな時期があった)

若さが若さでなくなるにはその時点で踏み止まることだ、「もう駄目だ、この道を歩くことを止めよう」そんな風に考えて楽な道を選んだりしないことだ、どうすればこの道の先へ行くことが出来るのか、何が自分の行く先を塞いでいるのか?そんなことを考えながら、打開策を練ることが大事だ、駄目だと思ってもやってみることだ、無駄だと思えることにこそ気づきが隠れていることだってある、そんなものを無数に経験して、もう一度原点に戻ってみたりして―自分のしてきたことのなかに自分の本質というものを見つけ出すのだ

子供のころから若さが嫌いだった、おかしなことにそんな時代はとっくに過ぎ去った今でさえ、口をポカンと開けてしまうような若さに出っくわすことがある、それは子供じゃなくても持っている若さだ、年齢の問題ではない、おろそかな経験によって養われるおろそかな若さだ、俺は子供のころから若さが嫌いだった、まるで年寄りのような一〇代を謳歌してきた、情熱ではなかった、誰かが俺の口の端に引っ掛けた釣針のことがずっと気になってそれどころじゃなかった、一〇代特有のむせかえるような熱気はハナから持ち合わせちゃいなかった、俺は感情に頼ることを良しとしない、だからいろいろなアウトプットが必要になった、俺は若さをある程度乗り越えていて、欲しかったもののいくつかは明確になり始めている、若さの何が一番嫌いかって―?無条件に自分を信じてしまう浅はかささ…俺はただ生きているだけの自分を否定し、僅かでも何かを得ようと思って、自分自身を試しながらずっと生きている、予め用意されている結論に向かって歩いて行くような愚行は犯さない、あとになって、(ああ、あれがあの時の結論だったのだ)と思える、そんな瞬間瞬間を通過し続けながら、若さに唾を吐いて新しい一行を書き足していくのだ




自由詩 子供のころから若さが嫌いだった Copyright ホロウ・シカエルボク 2018-08-17 21:48:24縦
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