時代の鐘
ヒヤシンス


 時代という鐘がなって、僕は生まれた。
 コンクリートで固められた部屋には窓がひとつあって、そこから海が見えた。
 そこには髪の長い女の子がいて、自然と二人並んで海を見ていた。
 海の音も風の音も聞こえなかった。
 
 僕は優しさを知っていたが、彼女は愛を知っていた。
 僕はきっと前世で誰かに優しくされたのだ。
 彼女はきっと前世で誰かに愛されていたのだ。
 僕らはお互い貧富の差があって、時代の鐘と共に死んだのだ。

 二人が身に着けているものは、貧しい布切れ一枚。
 足には鎖が巻かれていて、重たい錘が付いている。
 僕も彼女も前世で誰かを殺したのだ。優しさ故に。愛故に。

 目の玉が反転して僕の幻覚は終わった。
 いつもの平凡な暮らしが目の前にあった。
 僕が幻覚を見るたびに、時代の鐘がなるだろう。
 


自由詩 時代の鐘 Copyright ヒヤシンス 2018-08-11 05:13:06
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