メモ②
よーかん

消しゴムの使い方。母はボクが勉強をしているかあまり確認しなかった。宿題を忘れてばかりしている事実も、通信簿に書いてあって始めて気づく、そんな感じで、その上もう少ししっかりしなさいとか、ちゃんと連絡帳に書いて忘れないようにするのよとか、もうオニイチャンはあんなにしっかりしているのになんでアナタはそうなの、とか、そういった事はまったく言ったことがなかった。いや、どうだろうか、言っていたのだろうか、ただ記憶にないだけなのかもしれない。

消しゴムの使い方だ。食卓に座って教科書とノートを開いて宿題をしたりしたことはなかった。一つ記憶に残っている思い出がある。食卓でなぜか漢字のドリルを開いてゴリゴリとヤッているボクの隣に母が座り、その字は違うとか指摘し、その字を直すために消しゴムで消し始めると、違う、こう、こうやって、ただコスると伸びるだけだから、こう、こうやってチカラを入れて、こう、そんな風に母に消しゴムの使い方を教えられた、そんな記憶だ。母が小学生になったワタシに後にも先にも教育をしたのはそれだけかもしれない。そんな気がする。

別にジブンがいかにネグレクトされていたと訴えているわけではない。ネグレクトされたなんて一度も思ったことはない。ああ、子供なら一人で寂しいとか、そういった感覚か。そういう気持ちになったことはない。母は外で色んな事に参加していたから、放課後帰って家にいるなんてことはまずなかったが、母がいないから寂しいなんて感じたことはなかった。ネグレクトどころか、放っておいてもらって感謝している。昔から自由だけが好きだし、一人でいてヤルことがなくてツマラナイなんて感じた事なんてまるでない。外にいけば団地の友達がどこかで遊んでいたし、家にいたらテレビが見放題だ。なんか問題があるはずなんてあるわけない。

その記憶ではっきりと思い出せるのは、消しゴムを上手く使えない事を指摘されて、いくらやっても消しゴムが上手く使えないのが、やけに恥ずかしかったことだ。ボクは母にとって残念な存在なんだなと、気づいた瞬間だったのかもしれない。アネもアニも、当たり前のように学級委員に選ばれるタイプだし、音楽コンクールでは指揮者をするタイプだし、運動会ではかならずリレーの選手になるタイプだった。ただ、不思議なことに、ボクは彼等とジブンを比べたことがなかった。まったく違う人種だったからかもしれないが、それよりも、ジブンの時間のほうがずっと面白いことに満ち溢れていて、それを彼等は知らない事を知っていたからかもしれない。ボクのほうが小学生を満喫していたと自負してた。そういうことだ。いや、そんな事ない、ボクは彼等が毎日ナニをしているかとか、どうしているとか、そんなこと考えたこともなかった。あんまり会話をした記憶もないな。高校になってからかもしれないな、アネやアニと世間話みたいなことをするようになったのは。

そうか、そういうことか。
やっとなんだか書く目的が見えてきた気がする。


自由詩 メモ② Copyright よーかん 2018-08-10 15:58:09
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