ムンクの『叫び』を少年は叫んだんだ
秋葉竹



ムンクの『叫び』の
なかの少年(と、信じたわけです)を
自分自身だと感じ、
だから寂しくなった、とある日本の少年が、
その絵と詩人の中也をリスペクトするあまり、
いっぺんの詩を書いたのです。

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忘れっちまった寂しさは

忘れっちまった寂しさは
月虹(げっこう)しみこむ空の色
忘れっちまった寂しさに
酔うた赤目に風が吹く

忘れっちまった寂しさの
詩人が奇矯を裏切った
忘れっちまった寂しさを
乱破(らっぱ)素破(すっぱ)が刺し殺す

忘れっちまった寂しさを
安らかな眼で祈りたい
忘れっちまった寂しさは
死に顔みても穢れない

忘れっちまった寂しさに
雄雄(おお)雄雄(おお)しくも自傷の胸と
忘れっちまった寂しい声を
抑えきれずに夜さけぶ

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むろん、
その少年は、わたし。

そのさけびは、
わたしのなかの
ムンクの『叫び』だったのです。

それは、そんなに、
かんたんな絶望なんかじゃないんだ。
ひたすら、こえを枯らし続ける長い夜だ。

そして、その夜からわたしは、口を閉ざし続ける。
そして、ふりかえらずに、夜を往く。






自由詩 ムンクの『叫び』を少年は叫んだんだ Copyright 秋葉竹 2018-07-31 00:21:17
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