滝へ向かう
葉leaf


いまだ存在しない土地へと僕らは向かっていた。その土地の存在を証し立てるのではなく、その土地を僕らが新しく構成するために。電車は鉄化した巨大な鳥のように、地面すれすれの低空を飛ぶ。僕らはいつも二人であるために地面との隔たりを忘れない。君と僕の視線はなだらかなリズムで結びあったりほぐれたりを繰り返している。僕と君の複雑な往復運動にときおり落雷する虚無の太陽。風景を解き明かすためにはどれだけ高次の象徴が死に絶えねばならないか。風景の襞の中には川の塊や気化した樹木が未来を待ちわびている。バスはより深い緑を求めて、ただ緑のためにその欲情を走らせる。バスは僕らの意識を遠心力で外側へ引っ張り出してしまう。バス停から始まる世界にはいくつもの中心から冷気がうろのように漂っている。定められた道行きを行くと視界が窓のように開いて巨大な滝が見える。滝の巨大な運動に直接溺れる僕の神経と、滝をシャッター越しに何度もとらえる君の神経。世界の外側に避難していた水の輝きが世界の内に戻って来たかのような顫える鮮烈さ。君の手からは緊張が流れ込み、僕はそれを甘く砕いた。


自由詩 滝へ向かう Copyright 葉leaf 2018-07-30 04:26:55縦
notebook Home 戻る  過去 未来