あきらめてはいけない
ペペロ

うちが納入した数百円の工具がもとで

失明に至るケガをしたという北海道のお客様に

意見交換会という名目で呼ばれる

遠いところよく来てくれたとこちらをねぎらうお客様は

ビデオカメラを私たちに向けて固定し

この意見交換会なるものの撮影を始める

その工具は日常生活にたとえればお箸や歯ブラシみたいなもので

見た目や機能性が落ちれば買い替える類いのものだ

お箸や歯ブラシも折れて飲み込んでしまうと危険であるように

その工具も間違って使えばとても危険なしろものだ

この工具で失明に至るケガをしたひとがいるのだから

私たちも先約をすべてキャンセルし真剣にこの意見交換会にのぞんだ

使用手順書はないのか

点検基準はないのか

しきりに聴かれたのだが

お箸や歯ブラシにそんなものはないのと同様に

その工具にもそんなものはなかった

最後私たちが録っていた議事録に確認のサインをいただこうとすると拒否された

仕事がらよくあることなのだが私たちは虚しい気持ちになる

通用門でタクシーを呼び空港に向かった

北海道土産を買う気も起こらず観光客で賑わうさまを見つめていた

働き損、尽くし損に徹することが

運命改革のコツであり人生のカラクリであることは頭では分かっていた

あきらめてはいけない

そのコツを頭でしか理解していないうちはまだあきらめているということだ




自由詩 あきらめてはいけない Copyright ペペロ 2018-07-25 02:11:04
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