七月の睡蓮の庭
石瀬琳々

いつかわたしが殺したあなたは真夏の池に眠っている
水天井を睡蓮の花で彩られ 綾なされあなたは
わたしが逢いに来るのをずっと待っている
その白い咽喉をのけぞらせ(わたしが愛したその咽喉仏)
しなやかな四肢をのばしている朝夕を


誰にも知られない あなたは秘密の水脈
繰り返されるアラベスク模様のひとつの装飾のように
あなたとわたしだけの時間がそこにある
乱反射する光にわたしは眩暈を感じる
あなたの指先がわたしの足首を這い


 キスして
 そこから顔を上げて
 睡蓮の葉陰にあなたの切れ長の目が覗く


わたしは岸辺からあなたを見下ろして
あなたの唇がわたしの唇に触れるのを待っている
(そのまま窒息しても 水に引き込まれてもいいとさえ)
けれどあなたは水のなかでずっと黙して語らない
わたしをあの時のまなざしで静かに見つめ返し 



 それとも日々の泡
 あなたの唇がかすかに動いたような気がしたのは


ああその池がどこにあるのかすでに思い出せない
七月の光を浴びながら睡蓮の花が咲いている
怖いくらいに美しいのはあなたを隠しているからだ
水のやわらかなうねりに今もそっと抱かれているように
わたしだけの夢を永遠に見ているように




自由詩 七月の睡蓮の庭 Copyright 石瀬琳々 2018-07-23 20:59:54
notebook Home 戻る  過去 未来