蝉旦那
ゆるこ



今年の夏はとてつもない猛暑で
すでにたくさんの蝉たちが羽化をしている

私の子供たちは、ぼこぼこと土にある蝉穴に
足しげなく通い、
小さな穴に足を取られては、蝉のようにミンミン笑う

昨日の夜、ゴミ捨てに行った時、
ゴミ集積所に迷い込もうとした蝉が三羽
ゆらゆらとなまめかしい白い肌で
日中十分に火照ってしまったアスファルトの上を
女のようにふらふらと歩いていた

私は子供たちを連れて、それを眺めて
まるで産まれたての赤子のようだねと笑うと
急に子供たちは黙り込み、ひとこと

「お父さん」

と、洩らした

ここ一週間。
私は私の旦那の所在を把握していない

仕事に追われて、訳の分からない仕事時間に残業、
この猛暑の中自転車を走らせ、ふらふらと帰ってきては眠り、また早朝や真夜中に薄いシャツを羽織り出て行く

その姿はまるでこの蝉のようで、

私はマンションの下の土をちらりと眺めてしまった

浅黒く
大きな土の山がそこに横たわり、
中では白い何かがうぞうぞと蠢いていた

私の横にいた子供たちはミンっ、とひと泣きし
薄黒い羽を広げてその山に向かった

私が旦那を見失って一週間
彼はそこにいたのだろうか
それとも今、羽化するのだろうか
蠢く白い何かは息衝きはするものの
果たしてちゃんと飛べるのか
私にはあの三羽の蝉を見守るようなことしか
未だに出来ないでいる


自由詩 蝉旦那 Copyright ゆるこ 2018-07-23 08:01:46縦
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