ウイルス・スキャン
為平 澪

真夜中にウイルス・スキャンを実行して
モニターを見ながら怯えている
ブロックされた危険な接続の中に
今日も同じ顔を見つけた

この顔はファミレスでおなじみの
おばちゃんたちの自慢話と劣等感の駆け引きの中で
泡立ったメロンソーダーの中の不純物
その隅で立ち上がる甲高い声はトロクサイと、高齢者を嗤う
ラインが止まない女子高生のIDとIPアドレス

ファミレスの町ぐるみ検診を何度も起動させると
真夜中に胃がキリキリと痛む
体内に悪いウイルスがいるせいだと 医者は語る

私の胸部も頭部も異常がないのに
悪いことを見つけたら罰したい寂しさが
液晶画面を青に変える

毎日をスキャンして安心したい
   (私は安全だ、と
毎日を表示して教えてほしい
   (ウイルスはいませんでした、と
毎日を毎日フルスキャンして 私は木端微塵に疲れていく
   (駆除したいのか、駆除されたいのか

デイスプレイに映る 私の小心者が
私を乗っ取り、私に成りすまし、私に取り付き
私のデーターを引き出し、私を裸の王様に仕立て上げる

ウイルスは駆除、ウイルスは排斥、
そんな口論で日は暮れて 誰に何が守れただろう

「悪いことをする人は どこか淋しい目をしているね」って
言葉を思い返すと ウイルスがまた一つ
胸のあたりから侵入してくる

モニターをうろつく小さな
「つながりたい」が悪意を持って涙するが
押しかけられても守ってやることはできない

私はただ私の手で真夜中を行き惑う
画面に引っかかった私の意気地なしを拾い集めると
何食わぬ顔をして
自分自身を シュレッダーに投げ入れる



自由詩 ウイルス・スキャン Copyright 為平 澪 2018-07-16 21:09:43
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