午睡
ヒヤシンス


  お前は夢を見ているのか。

 緑に囲まれた小さな庭の片隅。
 日陰に置いた籐椅子に腰かけたお前は優しく眠っていたのだ。
 
 静かな寝息を立てているお前に私は小声で語りかけた。

  見てごらん、あそこの木の陰に栗鼠が隠れているんだ。
  まるで僕らがそいつに気付かないとでも思っているんだな。
  思い切り口に頬張った木の実を僕らに取られるんじゃないかと怯えている。
  可哀そうな奴だな。あ、木の上に登って行っちまった。

 お前の微睡を幸福の証として私は眺めていた。
 日盛りの午後。
 軽い眩暈を覚えた私は、お前の真向かいの籐椅子に腰かけて、
 一人、アイスティーを飲んだ。

  今日はね、何にもない日なんだ。何もね。
  だからお前といる。一日お前といられる。
  暑くはないかい?白い肌が日焼けしちゃうぜ。 
  その帽子、お前によく似合ってるよ。

 私はアイスティーを啜りながら、読みかけの本を読んでいる。
 私はお前の病気を理解したかったのだ。
 「精神世界の闇と光」
 よくは分からなかった。

  そういえば、明後日はお前の誕生日だね。
  お互い歳をとってゆくばかりだな。
  プレゼントは何が良いんだろうな?
  二人きり、ケーキでも食べようか。

 気が付けば、日は暮れかかっていた。
 外気が次第に冷たくなってゆく。
 静かに本を閉じ、思い切り深呼吸した。
 むせるような緑の匂いが鼻についた。
 庭の向こうの林から蜩の微かな声が聞こえてくる。
 目の前に座っているはずのお前はいなかった。
 ただお前の麦藁帽子だけが籐椅子に置かれている。

  お前は夢を見ているのか。
  いや、私は静かに現実を見つめている。 

 
 
 
 
 


自由詩 午睡 Copyright ヒヤシンス 2018-07-14 05:50:12
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