おくさま、わたしは大変つらい話をしなければなりません
竜門勇気


くだらないと
君はつぶやく
その手触りを
喜んでるなんて
思っちゃないんだろう

新しいハーモニカに歯を立てながら笑うよ
新しいハーモニカに歯を立てながら笑うよ
真新しいズボンによだれのシミが広がる
新しいハーモニカが歯を剥いて笑うよ

ひどいことだけなら
お互いやってきた
僕だけが
傷ついたふりをした
雲がなかったその日には

新しいハーモニカに歯を立てながら笑うよ
新しいハーモニカに歯を立てながら
古ぼけたシャツによだれが糸を引く
新しいハーモニカが落っこちた
膝を叩いて 机の下に転げていった

アイリッシュローバー
合言葉のつもりで口に出す
声は字になって
うつむいた僕らに共有される
猫のマネ 目をつむる
人のマネ 一度開けて 閉じたら語らない

アイリッシュローバー
伝言のつもりで窓に書く
指先は枯れた枝になって
靴の上に無意味になって降り積もる
意味が砕けていく
気持ちが別のものになる
意味が壊れて無意味になって
爪先で積もって意味を持つんだ

新しいハーモニカに息を吹き込もう
新しいハーモニカに息を吹き込もう
新しい言葉を探していよう
間抜けめ 白痴のよだれでベトベトになって

新しいハーモニカに歯を立てて笑う
新しいハーモニカに歯を立てて笑う
手のひらで包んで温めるんだ
白さはいつでも慰めになる
白いよだれがシャツに糸を引いて落ちる
真新しいズボンに輝く粒になって流れる

くだらないと
君はうなづく
背中を震わせて
笑うふりをする
窓の外をみてみた
君は僕の演奏を聞いていた

左手の小指をみながら息を吸う
そうしながら一つずつ
指を数えた
君の右手をみて
小指から順に
指を数えた
No.9
おくさま、わたしは大変つらい話をしなければなりません


自由詩 おくさま、わたしは大変つらい話をしなければなりません Copyright 竜門勇気 2018-07-13 01:57:34
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