桜流し
坂本瞳子

梅の木の根本で小さな箱を見つけた
錆だらけのブリキの小箱には
鍵がかけられているようだ
力任せにこじり開けたところ
瑞々しい桜の花弁が溢れんばかりに流れ出した
そう、私の手の上の小箱から桜の花弁が
滝のように流れ続けたのだ
驚きのあまり咄嗟に小箱の蓋をもどした
蓋は抗い、押し開かれそうにさえなったけれど
あらん限りの力で抑えつけた
一体何がどうなっているのか
花弁の中に悪戯好きな妖精でも潜んでいるのか
そう思って恐る恐る小箱の蓋をもう一度開けてみた
またもや相当の力を強いられた
爪がこそげ落ちるほどに
そして隙間が開くや否や
花弁は零れんばかりに流れ続けた
春などとおに過ぎたと言うのに
呆れるほどの強い陽射しの下で
憂いを覚えた気怠い午後のことだ



自由詩 桜流し Copyright 坂本瞳子 2018-07-10 00:52:14
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