チンピラ
こたきひろし

夕方の繁華街でカッブルがチンピラに絡まれた。
チンピラはいかにもチンピラでカッブルはいかにもカッブルだった
チンピラがいきなりインネンをつけてきた
カッブルの男の方がガンをつけたと不条理な言いがかりをつけてきた
チンピラは精巧に創られた人間ではないのかもしれない
肩をいからせながら教養の欠片も備え付けられていなそうだった
対してカッブルの男の方は精巧に創られた人間であったに違いない
鋭い眼光をしていたからチンピラのイチャモンはあながち間違ってはいなかったかもしれない
カッブルの女の方は脅えてしまった
しかしそれは
単純にふりであったかも

もしかしたら彼女は精巧に創られたラブドールであったかもしれない
男の体に性的な興奮を呼び込む
チンピラは初対面なのに女の放つオーラに魅せられた

夕方の繁華街は人で溢れていた
溢れすぎて異次元の世界にこぼれんばかりだった

そのなかの誰一人チンピラとカッブルの状況に関心を示さなかった
実質は見て見ぬふりだった

カッブルの男の方が財布を取り出してその中から紙幣を何枚か抜き取りチンピラに渡そうとした
赦してくださいと言った
チンピラは答える
金で事を丸く納めようって訳か
そして「悪いが俺は今苛ついてるんだよ」と続けた
あんたの彼女を貸してくれたら俺のイライラもおさまるかもしれないが、どうする?
と言った
「それだけは勘弁して下さい」
カッブルの男の方が言った
勘弁できないと言ったらどうするんだ
チンピラが答えるとカッブルの男の方が顔色をかえた
手荒な真似はしたくないんですが、とカッブルの男の方が答えた

カッブルの女の方はいたって冷静になっていた
自分を争って男二人が争うなんて、刺激的だと女は妙に震えた

チンピラはいきなりチンピラらしくナイフをかまえた

夕方の繁華街は無関係に時間が過ぎて流れていった

誰かが通報してけたたましいサイレンが鳴り響いた


自由詩 チンピラ Copyright こたきひろし 2018-07-01 07:13:28
notebook Home 戻る  過去 未来