ジョルジュ・ルオー 「郊外のキリスト」
Lucy

僕たちは食べ物もお金もなく
日が暮れてから兄ちゃんと
母さんを迎えに
町はずれの工場まで
来たけれど

いくつも並んだ古い四角い建物はすでに人の気配すらなく
黒々とあいた窓はどれも底なしの暗闇で
太い道は次第に細くなり
遠くまで続くかと思えば
すぐそこで行き止まりになっているみたいだ

泣きたい気持ちで立っている僕たちの横に
おじさんがいた
背が高く髪が長くて
ごわごわした麻の長い服をまとい
整った細面の顔は汚れたひげでおおわれていた

いつのまにか
まっくらな空に白い大きな月が出ていて
その光を背中に浴びながら
濃い影を地面に落とし
おじさんは
何も言わずに僕たちの横に立っていた
僕の影も兄ちゃんの影も
真っ黒で
おじさんの影と並んで地面に張り付いていた
月の光は僕と
兄ちゃんのことも照らし
おじさんがいるから
安心だった

おじさんは
何も言わず
ただ僕たちとともにいた





自由詩 ジョルジュ・ルオー 「郊外のキリスト」 Copyright Lucy 2018-06-20 00:43:33
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