ロック・アンド・ハードプレイス
ホロウ・シカエルボク


一日中喋り続ける雨のせいで路面は市街戦のあとのように濡れている、歩いている連中の大半は敗残兵で疲労と絶望にどっぷりと浸かった瞳はいつでも、自分より少し劣る誰かを探している…陰気な自己愛という最悪なウィルスが老若男女問わず蔓延っていて、いつでも蚊の鳴くような声で誰かを貶めているつもりになっている、ハッ、お笑い草だ―深夜だというのに温度が上がり始めていて、身体には汗さえ滲み始めている、明日は梅雨の晴間だそうだ、だからといって特別な予定なんかない、僅かな仕事と、ほんの少しの用事を片付けるだけで終わる、出来ればシーツを洗いたいが…ぼんやりとそう思うだけでどうせ終わってしまうだろう―誰にでも出来ることをしながら偉そうな顔をして生きていける連中のことは判らない、在りものの価値観を鵜呑みにしていることがどうしてそんなに誇らしいのだろう?銃剣を手に青い目の軍隊を殺しに突っ込んでいった連中もきっと、そういう人種だったのだろう、近頃は頻繁にそんなことを考える、その違和感は若いころからあったけれど、乗っかることを美徳とする人間がこんなに居るなんてそのころは知らなかった、踊る阿呆に見る阿呆というやつだ…本当に踊らにゃ損だろうか?俺には一度だってそんな風に見えたことなんかなかった、決まりきった足さばきを守るのに夢中で、それがどんな意味を持つのかなんか微塵も考えやしない連中の喜々とした表情は、怖気と表現するに相応しいものだぜ―大人になったら判るかもしれないなんて思っていたけど、そいつは年々おぞましいものに見える、俺はたぶん一度もそこに足を踏み入れることなく死ぬだろう、たとえそのために多くのものを取りこぼすことになったとしてもさ―もちろん、そういう場所に居たって気づくことは出来るだろう、追いかけていくことも出来るだろう―だけどね、そいつはとてもたくさんの無駄の合間を縫ってやらなくちゃいけなくなるんだ、終いにはきっと、なんのためにそんなことをしているのか判らなくなってくるのさ、そして、考えるのが面倒臭くなって、周りと同じように生真面目なアホ面を晒して踊り出すんだ、楽と自由、幸せと妥協を巧妙にすり替えながらね…勝手にしやがれ、なんて、古臭いタイトルのひとつでも持ち出してみたくなるってもんだよ、気狂いピエロになるためにね…雨の音がしなくなった、詩を書いている間に―もしかしたらまだ細かい雨粒は落ちているのかもしれないが、窓を開けて確かめてみる気にはならない、ようやく効き始めたエアコンの努力を無駄にしてしまうからね…近頃は奇妙なほどに眠気に囚われることが多くて、それはもしかしたら五月病なんて呼ばれるものなのかもしれないのだけど、俺にとってこの五月はウンザリするくらいに長くて退屈なシロモノだったよ、休みがたくさんある、どこかに遊びに行ける、そんなことが本当に楽しいことなのか?決められた期間のなかでせせこましくうろつくことが…?とっくになにかが壊れているのに、まったく問題ないような顔をしてみんな同じことばかりを繰り返す、幸せはここにあるよ、明日は必ず訪れるよ、安い教義みたいなヒット・ミュージックが垂れ流される世界のなかで、小さな子供が自分の親に止めを刺されている、ああ、そんな言い回しは良くない!等しく悲劇だ、すべては等しく悲劇なんだ…俺のものにしても、お前のものにしても、特別な悲しみや苦しみなんてない、すべては等しく悲劇だ、一日中降り続いた雨のせいで路面は市街戦のあとのように濡れている、俺は自分の人生にしか興味はないけれど、お前がもしもその下らないしきたりから逃れたいと願うなら、少しの間援護射撃をしてやるくらいべつに構わないぜ…。


自由詩 ロック・アンド・ハードプレイス Copyright ホロウ・シカエルボク 2018-06-06 23:52:18縦
notebook Home 戻る  過去 未来