鳥葬
田中修子

眩しい
なにもみえぬ夕暮れのなかに

鳥葬の塔

アーチ型の風雨にいたんでいる木製ドアを開けよう
耳に痛いちょうつがいの音がして少し赤錆がおちる
取っ手にはこれまでのすべての
怯えている指紋がこびりついてギトギトとしている

灰色に芯まで冷える石畳には
無数の澄んだあなたの骨が
血の滴りのような薄灰色の糞にまみれて
散らばっていた

鳥がわたしの中に巣をつくり囀り産卵している
わたしは柔らかいところからついばまれている

わたしの
まだぬくい
コロンとしているこの目
波打っている破裂しそうな心臓の筋肉
赤いただれた花のようなはらわた

射貫かれた悲劇の王のように
からだを広げて倒れているかなしい道化師のわたしの
まるまるとした頬に
塔のある黒い森に通ずる
白い光る道ばたに落ちていた母の口紅で描いた
涙型のところをとくに念入りに
食ってあの
痛いような空へかえしておくれ

すべて声を失った鳥よ 羽ばたきだけがあなたの存在を知らしている

お願いだわたしがまだ娘として
みずからの
口を縫う痛みに
耐えられるうちに

わたしはまだ生きている死体としてこの森に
この空に
そびえ立つ

あなたの嘴に
唇を捧げよう
口を噤もう

さようなら

わたしに殺された

父よ


自由詩 鳥葬 Copyright 田中修子 2018-05-30 00:45:47縦
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