黒くはるかに
若原光彦

ありとあらゆる愉しいもの
俺の前に待て
俺が死んだ翌日に咲け
昨日のことなど打たせてしまえ
喪失を喪失したひどさ伏せて
地上をきれいにしてしまえ
違和感を殺し合え
またありとあらゆる苦しみごと
俺の前に待て
俺をおどらせ俺にくらわせ
手持ちのかなしみや怖じけをふるえ
さとい俺にはよく効くだろうとも
俺は嬉しくてたまらない
訪れのしなりがその炙り漿水が
甘くてうまくてこそばゆい
俺へ書き写される光栄に
どこまでも不可知な禍福ども
俺の宇宙に棲まえ
そしてありとあらゆる穏やかなもの
俺の前に広がれ
俺のものすぎて捨てたやつと
つねに思い違いさせろ
透いたどくろが到頭きたか
のびた日影がじゃらけたまでか
看過ごすぐらいに引きつけて襲え
一般にそれは歓喜とあだされ
俺はなんたる卑劣と猛ぶ


自由詩 黒くはるかに Copyright 若原光彦 2018-05-28 01:17:43縦
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