Mississippi Blue
AB(なかほど)

水無月:おかえりだけで埋まってゆく


二年振りに帰ったときには通夜はもう始まっとった
大往生や、ええ顔しとるやろ、せやな
いう声が ぽつぽつと
わしはなんでか涙もでえへん
ここ何年も口きいたこともあらへんかったし

従姉妹のめありいが台所の手伝いしとって
遠いとこから疲れたやろ
いうて
法事にいつも出されてたすまし汁よそうてくれたんを
ああ、疲れたことあらへんけどな
いうてすすった


 
あかん

なんでこないなすまし汁の味で涙でよんねん
あかんやろ
こら あかんやろ


そのときはじめて
おじいの顔つき変わって

おかえりい

いうた気がした




長月:芋月仲間



あんまり得意やないんやけど
て とむ がゆうて
しゃあないなぁ
て じむ が箸をのばしてきよる

なにが 違たんや
せやなく
なんで変われへんのかったんやろ
誰かの思いに押されて淀川も木津川も大和川も
ゆるりと流れける を続けとる


案外いけとるんやけど
って めありい が頬を膨らませて
やっぱり川はゆっくり流れける


むこうの舟のひとが
やぁやぁやぁ ってしよるから
はっく も おぉい ってしよる
誰や
って とむ はゆうけど
誰でもええんや
て ぽりいおばはんが答えとる

ゆきつくとこみなはんおんなじや
ただただ
ただただ生きとるだけで泣いてまうことあんねや
この川の あの月のこっちでもあっちでも
じぶんのんもひとのもんも
ぎゅっ てでけたらええな
でも ふんわりもええな
ふんわり ぎゅう って




たましいはそこにあんのか
ゆっくり考えてみるわ


たしかにいけるな




極月:みかん持ってきはった


こたつ こたつ ぽぅ
言いながらまいけるはんが
みかん持って来はった

ぽぅ
もうそんな季節かいな
どおりで街中あべっくだらけになるんやな

ながされたらあかんで
ながされたら ぽぅ

なんでか説得力からっきしのうわづった声に
いつも
せやな
てこたえてまう

指先の開いた手袋で
みかんふたつむいたころ
とくいの鼻歌もしまいになって
ぽぅ
まいけるはんはあいかわらずの足取りで
王子の商店街に帰りはった

ふと
まいけるはんは太子はんの生まれ代わりかも
て思たら
世の中 平和やなぁ ぽぅ 

うちの口からも祈りの声がもれた




弥生:淀川ブルー                


結局また
こないなとこ戻ってまうねん
て とむ が言う
ほんまの自由は
ここにあるさかいに
て じむ が言う

ぼちぼち が一番や 
て言いかけた はっく は
鼻水すすりながらスネアを合わす

そんなんいまさら言わんでも
俺らのミシシッピ(淀川)は絶えず流れて
ぼちぼち や

十三のホール
ぽりいおばはんのクッキーの匂いと
めありいの笑顔が忘れられへんように
結局また
こないなとこ戻ってまうねん
て言いながら
筏に乗ったように体を揺らす


たましいはまだここに
ここにも あんねや









         (即興ゴルコンダ、よせあつめ)


自由詩 Mississippi Blue Copyright AB(なかほど) 2018-05-24 12:37:07縦
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