左足の小指が
坂本瞳子

左足の小指が見当たらない

なくても困らないと思ったのだけれど
意外とバランスが取れない
歩き難い

喪失感が大きくて
寂しくて
もう耐えられそうにない

痛みはないくせに
痛いと訴えて
泣き続ける

だのに誰も見つけてくれない

不安にかられて
眠れないと思ったのに
疲れて寝入ってしまった

夜中に目が覚めて
左足の小指がない不安を抱え
確かめることさえできずに
悪夢だと言い聞かせて
また涙を流して


朝陽に射されて
目が覚めたら
見ないわけにはいかず
怖いもの見たさではないけれど
確かめないわけにはいかず
恐る恐るの気持ちをもって
目ではみないようにして
左手を少しずつ足元へ
膝を曲げて
踝を弄び
踵から足の先へと
寄り道をしながら
爪先へと手の平を這わせて
そしてついに
左足の小指は
そこにあった
取って付けられたようだけど
確かにそこにあった
とても安心した
束の間の大きな不安は嘘のように消え去り
日常が戻ってきた
小指への感謝は消さないけれど


自由詩 左足の小指が Copyright 坂本瞳子 2018-05-20 21:01:09
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